iPhone12 mini July 16(開花3日目)
「カナカナぜみが遠くで鳴いて」、庭のヤマユリ(Lilium auratum)が咲きました。花の大きさは20センチほど、良い香りを漂わせて梅雨明けの庭を飾っています。学名にある auratum はラテン語で「黄金」を意味しており、「金」の元素記号 Au の語源でもあります。ヤマユリは白い花だと思われていますが写真をよく見て下さい。花の中心から花びらの先まで美しい黄色の脈が通っているのが見えるでしょう。
わが宇陀の田舎では、毎年この季節になると近隣の里山でヤマユリが咲いているのを目にするのが当たり前のことと思われてきました。
それがこの頃では山道を通っても遠目にも白く目立つはずのこの花を見付けることがほとんどなくなっているのです。今更ながら私の庭のヤマユリがいっそういとおしいものに思えてきます。
実は私の庭のヤマユリはもう何時のことだったか覚えていないくらいの昔、私と家内が近くの里山から掘ってきて植えたものです。その頃はヤマユリは何処にでもいっぱいありましたから、球根を掘って持ち帰ることに何ら問題なかったのです。
しかし、今は違います。今はもう野生のヤマユリを掘り取ってはいけません。こんにち、ヤマユリは京都府では野生では絶滅したとされ、奈良県でも准絶滅危惧種扱いです。それくらい減ってしまいました。
ヤマユリが減り始めるよりすこし前の時代、ササユリ(Lilium japonicum)が急に私の田舎の景色から消えました。業者が片っ端から採ったとか、色々云われましたが本当のところはよくわかりません。かつて六月の里山の縁はササユリに覆われていたのが嘘のようです。同じことが今ヤマユリにも起ころうとしています(註)。
これら野生のユリたちは山で掘って持ち帰っても、私やあなたの庭でうまく育つとは限りません。私は昔、まだササユリがいっぱいあった頃、近所の里山でその球根を掘ってきて庭に植えました。しかし、その株は翌年少し弱々しく芽を出して小さな花をつけましたが、三年目にはもう芽吹きませんでした。懲りずにおなじ過ちをもう一度やりました。以後ササユリの球根を掘ってきて庭に植えることは止めました。
写真のようにヤマユリが毎年咲いてくれることはとても幸せです。私の庭を母なる里山と認めてくれているのでしょう。
蛇足 ヤマユリ考
ひとことで言えば世界一のユリです。
ヤマユリは「山に咲く花なのだから山百合」だ、と名付けられたであろうその鄙(ひな)びた名前のせいで、あまり大した花ではないように受け取られ勝ちですが、欧米では「ユリの王様(または女王様)」だとされれているほど素敵なユリなのです。ヤマユリの英語名は gold-banded lily です (lily of Japan, mountain lily という呼び方もあるようです)。
Lily of Japan の名の通りヤマユリは日本にだけ自生する固有種であって、本来の自生地は近畿以北(東)とされています。里山の東向きの傾斜地を好んで生育するユリ科ユリ屬の宿根草で、球根(鱗茎)で冬を越し、夏に栄養を蓄えて年々少しずつ大きくなります。古い株だと草丈2メートルぐらいになって、花を十余り咲かせるようになります。オニユリなどと違って茎の陸上部分にいわゆるムカゴは作りませんが、それに代わるものとして地下部分に将来球根になる木子(きご)ができます。秋に種子が実りますが、それが芽吹くのにふた冬が必要で、実生だと花を一つつけるまで育つには正味5年かかります。
ヤマユリの球根は苦みがなく、古来から食用にされてきました。しかし、何年もかかってやっと花をつけ、けなげに咲くこの花を見ていると掘って食べようかという気にはとてもなれません。
明治時代にヨーロッパ人が観賞兼食用として大量に掘って持ち帰り園芸品種のカサブランカが作られました(下の写真)。当時球根が一番多く掘り取られたという神奈川県が今ではヤマユリを県の花に指定しています。箱根の山が名所のようです。
ヤマユリの花言葉は、「荘厳」、「威厳」、「純潔」、「飾らぬ美」、「飾らない愛」そして「高貴な品性」などです。いずれも花のたたずまいを良くあらわしています。「人生の喜び」というのもヤマユリの花言葉として用意されています。山でこの花に出会ったときの幸せな気持ちを表しているのだとされています。
おまけ カサブランカ
- iPhone 12 mini (July 26)
ヤマユリの咲いている私の庭で少し離れて同時に咲きました。いわば真っ白なヤマユリです(Casa Branca = 白い家)。これはこれでエレガントですね。球根はもらい物です。カサブランカの花言葉はヤマユリのそれと重なりますが、「祝福」という言葉が追加されていますので、慶事で花束として贈るのに適しています。ただ、これを切り花にするときは花粉で衣服を汚さないためと少しでも花を長持ちさせるために雄蕊をつまみ取るのだそうです(ヤマユリでも)。
(註)ササユリと宇陀のお酒
奈良県桜井市の三輪明神は酒の神でもあり、当地方では酒屋さんは三輪明神の杉玉を軒に吊るしています。その三輪明神の神の花がササユリで、それから取った天然酵母を使った酒が宇陀地方で作られています。赤米から造るので赤いお酒です(森田浩司氏の助言により追記2024/01/03)。