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井上隆智ブログ

「テンモニター」と「レコード藝術」




 私が聴いているスピーカーです。最近、ある週刊誌に音楽録音スタジオの写真が載っていて、そこに(音質調整用の)モニターとして私のと同じスピーカーが置かれていました。それを見て嬉しくなり、このページを書こうと思い立ちました。また、折も折、雑誌「レコード藝術(レコ芸)」がこの6月で休刊すると発表されました。そのことにも後半で少し触れたいと思います。

 

 このスピーカーは YAMAHA NS-10M PROです(高音用スピーカーが左右対称の2台がペアのこれは私が勝手に決めた左側用)。「テンモニター」または「テンモニ」という愛称がついています。幅、高さ、奥行きは、215x382x199mmで、6kgあります。オリジナルモデルは1978年に一般家庭向けに発売されました。その完成型であるこのタイプは 1987年に発売されたものです。私がこれを買った動機は、それまで(今も)使っているタンノイ・ランカスター・スピーカのエッジを張り替える必要が生じたので、音楽の”留守番”として音もさることながらルックスが気にいって買いました。さすがピアノを作る YAMAHA ならではの黒光りし高級感のある筐体に真っ白な18センチ・ウーハーが映えるこの姿は当時発行されていた音楽之友社「週刊FM(1971-91)」に毎号写真の広告が載っていて魅力的だったのです。書斎にはじめて置いた時から期待通りのかっこよさは今も変わりません。2001年、この白いコーン紙の材料に使う外材の針葉樹が手に入らなくなったとかで、惜しいことに生産が中止されました。

 初めは一般用として世に出たこの小さなスピーカーは、当初オーディオ評論家からはあまり評価されませんでした。それが何時しかプロの目に止まり、一気にスタジオ用モニターとして世界を席巻しました。初代からだと何と生産台数が30万台(セット?)を越えたそうです。最初に述べたように、いまや音楽スタジオの写真には大抵このスピーカーが写っています。プロの耳はシビアです。”正しい音”を再生する実力がそうさせたのでしょう。

 言うまでもなく音楽は音の芸術です。”音”は、その大きさ(S/N=ダイナミックレンジ)、音程(高さ=周波数レンジ)、音色(トーン)という三つの要素から成り立っています。ですから、ダイナミックレンジが大きく、周波数レンジはフラットで広くとれていて、音色(≒ ハーモニー)は正確に再現できるるのが良いスピーカーの条件です。しかしいずれの製品にも何がしかの限界があります。その結果出てくる音が製品の個性となります。テンモニターも例外ではありません。筐体が小さいため重低音が出にくく、逆に粒立ちが細かくしかもよく伸びた中高音がかときにかえって耳につくと感じるのかも知れません。そのせいでジャズ向きだと評されることもあるようですが、私が部屋で聴いている限り、クラシックを立派に鳴らしていると思います。パイプオルガンはさすがに苦しいですが、カーペンターズの歌声や、モーツアルトのヴァイオリン・ソナタなどはとても美しく鳴らしますし、オーケストラの大太鼓も何とか実在感がわかる程度には再生します。
    テンモニターはプロの世界では「ニアフィリールド・モニター」と呼ばれるタイプで、スピーカーと試聴者の距離は2ー3メートルほどを想定しているようです。書斎で聴くのには丁度良いのです。

 

 音楽之友社の雑誌「レコード藝術(レコ芸)」がこの6月で休刊すると伝えられました。アナログレコード、CDなどの音楽ソースについてだけでなく、オーディ機器についても貴重な情報を提供してくれていたクラシック音楽ファンにとってはかけがえのない雑誌でしたが、ネット社会になった今、雑誌のような紙媒体の情報源の必要性が下がったのかも知れませんし、一面、私たちが日常聴く音楽ジャンルの方が移ろって、”クラシック音楽の雑誌”というものへの要求度が減ってきたのかも知れません。つまり、最近では、音楽ソースをネット配信に頼る機会が多くなりましたので、当然その再生装置はデジタル機器となりスピーカーではなくヘッドホンで聴く機会が増えました。1単位?3分や5分のポップスなら聞き流すのにヘッドホンはよいのかも知れませんが、シンフォニー40分を聴き通すための道具としてヘッドフォンは適さないでしょう。ネット時代は脱クラシック、脱オーディオ、脱スピーカー、そして脱「レコ芸」の時代だとも言えそうです。「スマホ(smartphone)にサブスク(subscription)のアプリ(application)をインストール(install) して・・・」。これがこんにちの音楽鑑賞の第一歩のようです。このカタカナたらけの2行を理解できたらあなたは現代人、分からなかったら普通の人で、オーディオマニアかも知れません。
 今だからこそ、然るべきオーディオ用アンプで YAMAHA NS-10M PRO を鳴らしてみましょう。ヘッドホンからは聴けなかった世界がきっと”眼前”に拡がります。全装置に要る費用は当面給与一ヶ月分もかければ余ります。なお、テンモニターの中古はネットで幾らも紹介されています。値段は新品時代と同じく1セット5万円ぐらいです。

 

          
               ・・・・・・・

独り言(NHKFM 《ホルンのブラトコビッチ演奏会》をテンモニターで聴いて)       
 
「・・・それにしても東京紀尾井ホールは響きが美しい・・・」

 

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