日本腎臓学会西部学術大会2020プログラムの表紙(部分)
明治の昔から「医学博士」という称号があります。一定の研究歴がある人に大学(院)から授けられますが、博士号は医師としての技倆とはほとんど関係がありません。一方現在では、専門医という制度があります。専門分野で一定以上の能力を持つ医師にのみ学会(例えば日本内科学会)から授与されます。内科、外科など大きな括りの下に深い専門分野(サブスペシャリティ)が何十とありますからそれぞれの分野にも専門医-----例えば日本腎臓学会専門医(全国で約5,500人)----がいます。専門医になるには主催する学会-----この場合日本腎臓学会-----が行う試験に合格しなければなりませんし、5年ごとに資格を更新する必要があります。その資格維持には学会主催の講演会(学会)に出席することが必須条件となっています。
COVID-19のせいでこの1年、私の知る限り医学系の学会は軒並みネット(WEB)開催となりました。
私の所属する日本内科学会や日本リウマチ学会も例外ではありません。年に一回、各学会の全国集会(=講演会)に出席することは私のような学者OBの町医者でも最新知識を吸収するなど意味のあることです。しかし、本音を言えば、学会会場まで出かけて行って持ち帰れる収穫と、東京など会場までの往復や宿泊などの負担を天秤に掛ければ、明らかに負担の方が大きく、学会出席は町医者にとっては苦の種でもあります。では何故そうまでしても学会に出かけるのかというと、物事を学びに行くということもさることながら、冒頭に書いたように専門医の資格を維持するための「学会出席単位」を貰いに行くというのがもうひとつの大きな目的になります。どの学会でも専門医資格維持に5年間におおよそ3ないし4回の学術総会出席(年1回)というきついノルマを課しています。それが今回はネット開催となり、出かける手間が全部無くなりました。
そこで私は所属する内科、リウマチなどの学会にネットで参加してみました。パソコンに今や不可欠となった(去年まで知らなかった)Zoomなるものを導入し、ネット決済で参加費(高い!)を払って事前参加登録をすれば準備完了でした。学会当日までにID、パスワードなどがメールで送られてきましたし、学会によってはは普段通りのプログラムまで送ってくれました。(写真)。
「これほど真面目に学会の講演を聴いて”回った”ことは現役時代でさえなかったなあ!」、というのがWEB開催の学会に参加した最大の感想でした。先にも言ったように、学会に出席登録をした第一の動機は専門医資格維持用の「出席単位を取得」するためでした。しかし、実際にネットの学会に出席してみると、「次の演題も聴いてみよう」、「これも面白そうだ」などと、多くの研究発表や講演をかなり沢山視聴することになりました。学会場での滞留時間で言えば、例年の何倍にもなる長さをパソコンの前に座っていたことになります。専門医の単位もさることながら「勉強する」という学会本来の目的は自然に達せられました。
その昔、ある高名な医学者が「日本の学会発表の八割は聴くだけ無駄だ!」と切り捨てて物議を醸したことがあります。しかし、今年の学会発表を聴いていて、普段は聴かないようなレベルのあまり高くない症例報告などでもそれなりに演者の熱意が伝わって何がしかの得るところがありましたし、まして、最先端の先生方の「教育講演」などは日常不勉強な町医者にとって「目からウロコ」ということが何度もありました。
何時までもコロナが続くわけではないでしょうが、この1年、学術講演会はWEB開催でも十分成果が上がるが上がることがはっきりしたと思います。コロナで日常が奪われ、奮闘している最前線の医師でも、WEB開催、オンデマンド視聴なら何とかなります。今年の教訓を生かしてCOVID-19の無い日が帰ってきても学術講演会にはネット参加の道を残すべきだと思います。
なお、2021年度から、専門医制度が更新され、専門医であり続けるには今までより更にきつい”平生点」が課されそうです。